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フリーランスに対するハラスメント事例(R4.5.25東京地判)

事案の概要

(1) X(原告)は美容ライター(女性)、Y1社(被告)は女性専用のエステサロンを経営する株式会社、Y2(被告)はY1社を設立した同社の代表者(男性)である。

(2) ア Y2は、Y1社のHPに掲載する体験談等の執筆を依頼したい旨の電子メールをXに送信し、平成31年3月20日の対面打合せを経て、Xと記事執筆について合意した。Xは、同月28日から令和元年6月3日まで、Y2による施術を計6回受け、平成31年4月23日にXのHPに記事を掲載した。

イ Y2は、上記対面打合せ時に、Xに性体験や自慰行為等に関する質問をし、第1回施術時にバストを見せるよう求め、第6回施術時には、施術用の紙パンツを脱ぐよう指示し、3回にわたってXの陰部を触った上、自分で陰部を触るよう要求して従わせ、Y2の性器を触るよう要求した。

(3) ア Y2は、令和元年6月4日から同月5日にかけて、Xに対し、Y1社専属のウェブ運用責任者として1日1回Y2社HPに記事を掲載し続けることを最低ノルマとし、SEO対策を行って同社HPを制作・運用してもらいたい旨、同年8月から業務を開始することを前提に6か月間は基本給を月15万円として業務委託契約を締結するが、それ以降は結果次第である旨を伝えた。

イ 同年6月17日、Y2は、Xに対し、性交渉をさせてくれたら食事に連れていくなどと述べ、キスをするよう迫り、Xの腰を触り、Xの臀部に股間を押し付けた。

ウ Y2は、同年6月28日、Xに、同年8月から店舗で新規顧客のカウンセリング等をすることを依頼し、同年6月30日、Xがそれまでのやり取りを踏まえて作成した業務委託契約書案について修正を指示した。同年7月1日、XはY2の指示を受けて修正した契約書案をY2に交付したが、Y2から修正等を求められることはなかった。

エ Xは、Y2の指示を仰ぎながら、同年8月1日から9月30日までは原則1日1回、同年10月1日から同月17日まではY2の指示により2日に1回、SEO対策を施したコラム記事をY1社HPに記載するなどした。Y2は、同月6日、Xに対し、EMSを導入している都内の店舗の一覧表を作成するよう依頼した。

オ Y2は、同年8月31日、Xの記事の質が低いことなどを理由として契約を打ち切る旨をXに告げ、同年9月4日、Xに対し、仕事の質が低いこと等について不満を述べた上、Xを抱擁してキスを迫り、Xの臀部に股間を押し付けた。同年10月7日、Y2は、Xを抱擁してキスをしようとした上、上半身の着衣を脱ぐよう指示し、女性Aと互いに相手の胸を触るよう指示した。

カ Xは、同月16日、Y2に、体調が芳しくないため同月18日から20日まで業務を休ませてもらう旨を伝え、同年8月分の報酬を支払ってもらうことは可能かを尋ねるメッセージを送ったところ、Y2は、報酬は10月末までの結果で判断させてもらう、打合せが難しそうであれば査定をして報酬を支払う旨を返信した。Y2は、同月21日、Xに、作業の検証・評価のための資料の提出を求めるメッセージを送信し、Xがどの数値をどう評価して報酬を決めるのか話合いをさせてもらいたい旨をY2に返信したところ、そういうことも教えないとわからないのであれば報酬を要求しないでほしい、Xとは契約も交わしていないし、今の状況ではスキルが低すぎるので契約は交わせない、Y2の教えの下に育ててほしいのであれば報酬は要求しないでほしい旨のメッセージを送信した。

(4) Xは、Y1社に対し本件業務委託契約に基づく報酬の支払、および、Y2からハラスメント行為を受けたことについて、Y1社に対しては安全配慮義務違反、Y2に対しては不法行為に基づく損害賠償等を求めて、本件訴えを提起した。

 

判決の要点

XとY2が、業務の内容や報酬の金額について具体的なやり取りを重ね、令和元年7月1日にはそれまでのやり取りを踏まえた本件契約書案を作成した上、同年8月1日以降、XがY2の意向を確認しながら現に本件業務を履行したことに照らすと、同年7月1日頃には、XとY1社間において、Xが同年8月から本件業務を行い、Y1社がXに対して月額15万円の報酬を支払う旨の本件業務委託契約が成立していたものと認められる。

(2) 「Y2の一連の言動(編注:事案の概要(2)イ、(2)イ・オ・カ)は、Xの性的自由を侵害するセクハラ行為に当たるとともに、本件業務委託契約に基づいて自らの指示の下に種々の業務を履行させながら、Xに対する報酬の支払を正当な理由なく拒むという嫌がらせにより経済的な不利益を課すパワハラ行為に当たる」。Y2がXに対して性的な言動に及んだ合理的な理由は見当たらず、これらはいずれもXの意に反するものであったと認められる上、XはY2の指示を仰ぎながら業務を履行しており、Y2はXに優越する関係にあったものというべきであるから、Y2の上記言動は原告に対するセクハラ行為ないしパワハラ行為に当たり、Xに対する不法行為に当たる。

(3) Xは、Y1社から、同社HPに掲載する記事を執筆する業務や同社専属のウェブ運用責任者としてHPを制作・運用する業務等を委託され、Y2の指示を仰ぎながらこれらの業務を遂行していたのであり、実質的には、Y1社の指揮監督の下でY1社に労務を提供する立場にあったものと認められるから、Y1社は、Xに対し、Xがその生命、身体等の安全を確保しつつ労務を提供することができるよう必要な配慮をすべき信義則上の義務を負っていたものというべきである。Y1社は、代表者Y2自身による上記セクハラ・パワハラ行為により上記義務に違反したものと認められ、Xに対し債務不履行責任を負う。

 

引用/厚生労働省

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