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未払い残業を発生させない労務管理体制

未払い残業代とは、使用者が労働者に対し支払う義務があるにもかかわらず支払っていない賃金を指します。

厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」によると、是正企業数1,069企業で、支払われた残業代の平均額は、1企業当たり609万円、労働者1人当たり10万円であったようです。

 

グラフ

 

出典/厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」

 

サービス残業による未払い賃金請求は、企業にとっての法的リスクとイメージ損失の両面から深刻な問題となります。

日本においては、サービス残業の実態が依然として存在しており、未払い賃金請求件数も増加傾向であるようです。

 

サービス残業が発生するのはなぜか

サービス残業とは、労働者が行った残業に対して労働時間分の適切な賃金が支払われていない状況を指します。これは労働基準法の違反であり、企業はサービス残業を強制してはなりません。みなし管理職によるサービス残業だけでなく、労働者が自主的に残業した場合でも企業には責任があります。

 

業務量の増加や締め切の迫り

多くの場合、サービス残業は、業務量の急激な増加や締め切の迫りなど、仕事の都合によって引き起こされます。特に、プロジェクトの進行状況が予想外の方向に進むと、作業量が急増することがあります。また、クライアントからの急な要望や提出期限の変更なども、サービス残業が必要になる理由となることがあります。

 

労働者の過剰な忠誠心や責任感

サービス残業が発生する二つ目の理由は、労働者自身の過剰な忠誠心や責任感によるものです。労働者が自分の業務に対して強い責任感を抱くと、その業務を完了するために自主的に残業をすることがあります。また、労働者が組織や上司に対して強い忠誠心を持っている場合、組織の利益や上司の要求に従い、サービス残業をすることがあります。

 

労働者の労働条件の不安定さや弱い交渉力

労働者の労働条件の不安定さや弱い交渉力が、サービス残業が発生する原因の一つとなります。労働者が正規雇用ではなく、派遣や契約社員などの非正規雇用である場合、労働条件が不安定であることがあります。また、経済的な理由から仕事を辞めることができない場合、労働者は上司や組織に対して弱い交渉力を持ち、サービス残業を強いられることがあります。

 

支払う金額は未払い残業代のほかにも発生します

未払い残業代を請求された場合、支払う金額には残業代以外にも追加で支払うべき金額があります。

まず、未払い残業代に対しては遅延利息が発生します。遅延利息は未払いの金額に対して年14.6%の割合(現従業員の場合は6%)で発生し、未払い残業代請求と同時に請求されることが多いようです。

また、付加金といって、裁判において未払いの残業代を請求する場合、未払い額と同額の付加金を請求することができることが定められています。

例えば、未払いの残業代が30万円の場合、裁判所は付加金の支払いを命じることで、最大で60万円の支払いが発生する可能性があります。

 

未払い残業が発生しない、残業を発生させないしくみづくりが重要です

労働者にとって未払い残業は、健康被害やストレスなどのリスクを伴い、労働環境の悪化につながる問題です。

企業にとっても、未払い残業は法的問題を引き起こすだけでなく、生産性の低下や従業員の離職率の増加にもつながります。

以下に未払い残業を発生させないしくみづくりとして主な対策をご紹介します。

 

残業に対する意識の改革

残業に対する従業員の意識改革が必要です。

個人の業務管理の方法が悪く生み出している残業が多くあります。

例えば以下のような残業です。

・仕事をだらだらと行うことから発生する残業

・仕事を抱え込むことから発生する残業

・仕事を完璧にこなそうとすることから発生する残業

・適切な情報共有が行われないことから発生する残業

・効率的なタスク管理が行われないことから発生する残業

・十分な準備や予防措置が行われないことから発生する残業

残業の原因を解消するためには、個人の仕事管理能力の向上やチーム内での円滑なコミュニケーション、効果的なタスク管理の実践、予防策の構築などが重要です。

ときには残業が必要なこともあるとは思いますが、個人の管理能力の向上によって防げる残業も多くあります。

 

労働時間制度や管理体制の見直し

労働時間制度や管理体制の見直しによって防げる残業も多くあります。見直しによって、従業員のモチベーションや生産性を向上することにつながります。

以下に、具体的な取り組みをいくつか紹介します。

■フレックスタイム制度の導入

従業員が自由に出勤・退勤の時間を選べるフレックスタイム制度を導入することで、従業員のワークライフバランスを改善し、ストレスや疲労の軽減につながります。また、仕事とプライベートのバランスを取りながら、より効率的に業務をこなすことができるようになります。

■リモートワークの推奨

テレワークや在宅勤務など、場所や時間に縛られない働き方を促進することで、従業員のストレス軽減やワークライフバランスの改善につながります。また、通勤時間の削減やオフィス環境の負担軽減により、生産性やクリエイティビティが向上する可能性があります。

■コミュニケーションの改善

上司や同僚とのコミュニケーションを改善することで、従業員のストレスを軽減し、生産性を向上させることができます。適切なフィードバックや報告体制、チームビルディングなど、コミュニケーションの改善に取り組むことが重要です。

 

生産性の向上

効率的な業務遂行によりコスト削減、品質向上、競争力強化などの効果があり、企業の生産性の向上につながります。また、従業員のモチベーション向上や働きやすさの向上にもつながり、生産性向上により企業がより持続可能な成長を実現することができます。

生産性向上によって防げる残業も多くあります。

以下は生産性向上のための有効的な取り組み例です。

 

■業務プロセスの最適化

業務プロセスを見直し、無駄な作業や手順を改善することで、生産性を向上させることができます。例えば、業務フローの改善や自動化の導入、業務マニュアルの整備などが挙げられます。

 

■報酬制度の見直し

報酬制度を見直し、成果に応じた評価や報酬を実施することで、モチベーションの向上や生産性の向上につながります。例えば、業績連動報酬や成果主義制度の導入、昇給・昇格制度の見直しなどが挙げられます。

 

■働き方改革の推進

柔軟な働き方の推進により、従業員のモチベーション向上や生産性の向上につながります。例えば、テレワークの導入、フレックスタイム制度の導入、残業削減の取り組みなどが挙げられます。

 

■リーダーシップの強化

上司やマネジメント層のリーダーシップが強化されることで、従業員のやる気や生産性の向上につながります。例えば、従業員のフォローアップやフィードバックの定期的な実施、マネジャーの指導力強化などが挙げられます。

 


労働法を遵守した適正な労働時間を設定し、従業員にその範囲内での業務遂行を求めることを基本とし、そもそも残業が発生しにくい職場づくりが大切です。

仮に、未払い残業が発生してしまった場合には、速やかに解決策を導入し未払い残業を解消しましょう。

従業員の働き方や仕事の負担を定期的に見直し、改善する取り組みを行うことも必要です。働き方改革を推進し、従業員の生産性向上とワークライフバランスの改善を両立させることで、残業の発生しにくい労務管理につながります。

 

未払い残業を発生させない労務管理体制