急速に変化する近年のビジネス環境では、労働者の労働条件の見直しが企業の生き残りに関わる問題となることが少なからずあります。
労働契約法では、労働条件が従業員にとって不利益になる場合、原則として労働者の合意なしに労働条件を変更することはできません。訴訟を起こされる可能性もあるため、手続きは慎重に進める必要があります。
労働条件の不利益変更には、従業員との合意を得る原則的な方法と、就業規則による変更による例外的な方法の2つの方法があります。
従業員数の多い企業となると、従業員と一人ひとり個別に合意を得ることは現実的ではなく、就業規則による変更が一般的です。
就業規則による不利益変更は、労働者の権利が不利益に変更することになるため、合理的である必要があります。
労働契約法10条では、不利益変更が必要かつ合理的な理由がある場合に限り、就業規則による変更が認められます。
例えば、業績悪化により人員整理が必要となった場合、賃金カットや労働時間短縮などの不利益変更を行うことがあります。この場合、経営状況の詳細な説明や事前の協議を経て、労働者が合理的な理由に基づく変更であることを納得できるようにすることが必要です。
また、不利益変更によって生じる労働者の負担が過度に大きい場合には、合理的な理由があっても変更が認められない場合があります。労働契約法10条には、変更の程度や範囲、変更前後の状況などを総合的に考慮して、変更が合理的かどうかを判断することが求められています。
つまり、就業規則による不利益変更は労働者の権利を制限することになるため、合理的かつ必要な場合に限り認められます。
さらに変更の際には、事前の説明や協議、合理性の検討などが必要であり、慎重に対応することが求められます。
不利益変更後の内容に合理性が認められる基準には、以下のようなものがあります。
変更によって生じる不利益が、労働者にとって合理的な範囲内であり、労働者に過度な負担を課さないことが求められます。例えば、賃金の減額や労働時間の増加などが労働者にとって適切な範囲内で行われているかを評価します。
変更を行う理由や必要性が明確であり、企業の合理的な事情に基づいていることが重要です。例えば、経済的な困難や業績の悪化などによって変更が必要とされる場合、その合理性を判断します。
不利益変更が他の労働者や同業他社と比較して不利なものとなっていないかを評価します。一方的な不利益を押し付けるのではなく、代替措置や経過措置などが設けられ、公平かつ適正な変更が行われているかを考慮します。
労働者や労働組合への丁寧な説明や必要な手続きがなされているかが重要です。労働者に対して変更の内容や理由が明確に伝えられ、十分な情報提供が行われ、合意形成がなされているかを評価します。
これらの要素を総合的に考慮し、労働条件の不利益変更が合理的かどうかを判断します。労働条件の変更は慎重に行われるべきであり、労働者の権益を保護しながら、企業の合理的な事情に対応する必要があります。
「変更が合理的」であったとしても、変更後の就業規則が従業員全員に周知されていなければその効力はありません。
労働基準法では、就業規則の周知方法として、「常に見やすい場所に掲示する」「書面で提供する」「磁気ディスクなどに記録し、各作業場で常に内容を確認できる」といった方法が規定されており、従業員が就業規則の内容を把握している状態でなければなりません。
就業規則の変更によって労働条件の不利益変更を行う場合、なかには不利益変更に反対の姿勢を示す従業員もいたとしても、不利益変更は合理性が認められれば変更ができます。
しかし合理性の判断は難しい問題であり、一定のリスクを避けることはできません。
そのため将来的なトラブルの芽を摘むためにも、丁寧な説明を従業員に行い、一人ひとりの同意を得ることが望ましいです。会社の丁寧な対応は、従業員の会社への帰属感強化にもつながり、後々の労務環境の良化にもつながってくると思われます。